エルピクセル株式会社(https://lpixel.net/)
“バイオデザインアプローチを通じて、現地で満たされていないニーズ・課題を発見することができ、結果として当初想定していなかった機能の実装を決定することができました。”
〜川邊 翔 様(プロジェクトマネージャー)〜
Q. 御社の事業について教えてください。
ライフサイエンス領域の画像解析に強みを持ち、医療・製薬・農業分野において画像解析技術、とりわけ人工知能技術を応用することで、高精度のソフトウエアを開発してまいりました。医師の診断を支援するAI画像診断支援技術「EIRL(エイル)」、創薬に特化した画像解析AI「IMACEL(イマセル)」を軸に事業を展開しています。
Q. 東京大学バイオデザインとの協働に至った背景を教えてください。
以前から海外展開を検討されていた中、AMEDにて募集内容とエルピクセル株式会社の技術の親和性が高いと事業があったため、公募を通じて応募し、採択されたのがきっかけでした。
Q. バイオデザインアプローチを実施したことで、現地ニーズの捉え方やプロダクトの実装にどのような影響がありましたか?
バイオデザインアプローチを通じて、現地で満たされていないニーズ・課題を発見することができ、結果として当初想定していなかった機能の実装することを決定しました。
当初は特定の感染症の検出・診断にフォーカスした構想だったのが、実際の医療現場にいる医療従事者へのインタビューや、医療現場の観察を目的としたクリニカルイマージョンを通じて、すでに類似した競合がいて、”そもそも介入するニーズはそこではないかもしれない”、というフラットな視点を持つことができました。
そこからは、すでに参入している競合との差別化を図るべく、検出や診断に関するニーズよりも、より高いニーズがあるのでは?と考え、改めて東京大学バイオデザインのチームの皆さんとクリニカルイマージョンを進めながら、ニーズの探索を実施し、結果として、検出よりもフォローアップにリソースがかかっていることがわかりました。
そこからは、当初のコンセプトに固執するのではなく、経過観察の効率化にシフトしたAIの構築にコンセプトを変更していきました。
“この大胆なコンセプトの変更は、クリニカルイマージョンを通じてしか生まれなかったと思います。”
Q. バイオデザインアプローチを実践してみて、最も発見が大きかったのはプロセスのどのポイントでしたか?
クリニカルイマージョンですね。その国にあったニーズ(製品)を届ける上で、必要不可欠な知識・理解(日本の医療との違いなど)を身につけることができました。
デスクトップリサーチでは得られない情報が多く、毎回のクリニカルイマージョンでの気づきも非常に多かったと思います。さすがに1週間で5-10人のハイペースでのクリニカルイマージョンは少し情報の渋滞が起きましたが(汗)
今回は残念ながらコロナ禍でのプロジェクトだったので、現地での実施が難しく、オンラインでのクリニカルイマージョンとなりましたが、現地で実施ができれば、よりクオリティの高いニーズの探索ができるだろうなと思っています。
私は、現地でのクリニカルイマージョンをおすすめします。
Q. 新興国・開発途上国での医療機器開発、販売において、先進国との最も大きな違いや最も大きな困難はどのようなものですか?
そもそも患者へ適切な治療を届けることが先進国より難しいと感じました。
具体的には、
- 地方などでは、病院へ行くのに数時間かかる
- 患者によっては疾患への理解が十分ではなく、自ら周りへ感染させてしまったり、深刻さを理解していないがゆえに積極的に治療を受けない
など、先進国ではない困難や大きくない困難が、新興国・開発途上国にはあることを学びました。
それらの発見や理解を現場から聞くことで、コンセプトにも大きく影響したと思います。
Q. 日本の医療機器やものづくりの技術は世界的にも非常に高いクオリティと評される一方で、今後大きなマーケットとしてあげられる新興国や開発途上国への進出が加速しない要因には、どのようなものがあるとお考えか聞かせていただけますか?
個人的な意見ですが、以下のような理由が挙げられるかと思います。
- 海外展開には多大なる費用がかかるため、市場が大きい先進国を優先する企業が多い
- そもそも、日本市場もある程度大きいため、リスクを冒してまで海外へ積極的に展開する企業が多くない
Q. それでも新興国・開発途上国への参入を決められた理由を教えていただけますか?
弊社としましては、国内ビジネスはある程度成長してきており、より規模を拡大するために海外へ参入しようと考えました。
- なぜアジアなのか?
直近ではアメリカ・日本のほうが医療AIの市場が大きいとされていますが、それは両国のTAM(Total Addressable Market) が大きいことに由来していると考えています。一方で、医療AIの恩恵を最も受けるのは、AIの高精度な診断機能と現状の診断レベルとの差が大きい新興国。
米国には医療AIベンチャー/AI医療機器数が日本の数十倍ある中で、当社は最大市場ではなく、今後人口増加が著しく最も恩恵を受け、かつ日米と比較してクラウドに抵抗がない市場がベストだと考えました。まずはタイから検証を始め、クラウド・AIを中心とした技術を中心に構築することで拡張性が高いシステムを構築し、その成功体験を元に東南アジア諸国に展開していく。クラウドを前提とした効率的な医療システムの構築ができたら、その他の国々に展開、または逆輸入も視野に入れる、という戦略を導きました。
Q. 今後、新興国・開発途上国への参入を目指している企業の方々へ伝えたいメッセージはありますか?
日本とは医療環境は大きく異なるため、入念な調査を行った上で進出するのが良いと考えています。
大きくは、国の制度などがかなり異なっていて、そもそもの思い込みや先入観をなくした事前調査が重要だったと改めて感じました。
あとはビジネス観点での商業性調査にもう少し力を入れるべきだったと感じています。価格帯や売上額、商流についてのリサーチにも、もう少し事前に力を入れたらよかったと感じています。
Q. 貴社のこれからの目標や展望をお聞かせください。
まずは本製品の事業化を成功させ、それを足がかりに他の国へも事業を拡大したいと考えています。
<エルピクセル株式会社提供:マヒドン大学への訪問>
<協力>
エルピクセル株式会社 当事業に関わる皆様